
毎年4月はテレビ業界にとって熾烈な駆け引きの季節だ。5月末に迫るエミー賞のノミネート資格締め切りを見据え、各プラットフォームがこぞって最も野心的なタイトルをぶつけてくるからだ。しかし、そうした例年の熱気と比べても、今年2026年春のラインナップが放つエネルギーはちょっと異常かもしれない。なによりもその多様性が実に痛快なのだ。真っ当に評価に値する『ハンドメイズ・テイル』の続編から始まり、妻の身体を小さくしてしまった男の視点を通して結婚生活の機微を突く奇抜なコメディ、10代の妊娠とセックスワークを繊細かつユーモラスに描いた作品、さらには絶対に眠気を誘わないガーデニング番組まで、ジャンルの垣根を軽々と越えた秀作がひしめき合っている。
現代のテック業界の病理をえぐり出すAMCの新作ドラマ『ジ・オーダシティ(The Audacity)』(4月12日配信開始)は、そんな豊作の月にあってもひと際強烈な存在感を放っている。劇中、焚き火を囲んで久々に再会したかつてのビジネスパートナー同士の会話が、この作品の根底にある狂気を物語る。「俺たちみたいな人間は、クソみたいな事態になったら身を隠さなきゃならない。島を買い、銃を集め、ギロチンに備えるんだ」。ランドール・パーク演じるゲイブは、ビリー・マグヌッセン演じるダンカンに向かってそう吐き捨てる。かつて「GambleSluts.com」というサイトの収益で享楽の限りを尽くしたゲイブは、今や豪華なプライベートアイランドに引きこもり、パラノイアすれすれの隠遁生活を送っている。ダンカンが哀愁交じりに指摘するように、かつてビキニ姿のモデルたちが腰を振っていた場所には、今や重武装した警備員が睨みを効かせているのだ。
これが2026年現在の、シリコンバレーの精神構造というわけだ。『シリコンバレー』『ウエストワールド』『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア』『Devs』、そしてそのすべてをごった煮にしたような『ブラック・ミラー』など、テック業界を題材にした風刺やスリラーの系譜はすでに分厚い。テクノロジーが私たちの生活を支配すればするほど、クリエイターたちはその巨大な影に惹きつけられてきた。だが『ジ・オーダシティ』が描き出すのは、もっと生々しく現代的なパニックだ。10年前には「世界を救う天才ビジョナリー」と持て囃された億万長者の創業者たちが、実は自分たちがこの世界を毒していたのだという共通認識の広がりに気づき、恐怖に怯えている。この自己防衛的な包囲網のメンタリティこそが、本作を既存のどのテックドラマよりも今の空気に寄り添ったものにしている。
金とテクノロジーに溺れた権力者たちのディストピア的な逃避行を見せつけられた後では、人間の泥臭い生命力こそが最高の解毒剤になるのかもしれない。冷徹なシリコンバレーの対極にあるような物語が、NHK連続テレビ小説『おちょやん』だ。
舞台は義理と人情の街、大阪・道頓堀。明治の末に生まれ、芝居茶屋に奉公に出された一人の少女が、やがて喜劇女優として波乱万丈の人生を切り開いていく姿を描く。松竹新喜劇の創設メンバーである上方女優・浪花千栄子の半生をモデルにしたこの物語は、とにかく泣いて笑える。芝居の道を志して這い上がり、一度は表舞台から姿を消すものの、ラジオドラマという新たなメディアで劇的な復活を遂げ、最終的に「大阪のお母さん」として大衆に愛されるまでの数奇な道のり。『半沢直樹』を手掛けた八津弘幸氏による脚本は、単なるサクセスストーリーの枠に収まらず、逆境の中でいかにして「笑い」が人間の尊厳を保つ武器になるかを骨太に描き出している。
片や、自らの業に怯え、孤島に要塞を築く現代のIT長者たち。片や、どん底から這い上がり、マイクの前で人々の心を温め直した昭和の喜劇女優。時代も背景もまったく異なるこの二つの生存戦略が、同時期に私たちのスクリーンを賑わせている事実はなんだか示唆に富んでいる。結局のところ、私たちが今の時代のフィクションに求めているのは、最悪の現実を直視するための鋭利なメスと、明日を生き延びるための温かい人情の両方なのだろう。さて、あなたは今夜、どちらの世界にチャンネルを合わせるだろうか。
