
現代のエンターテインメント産業を俯瞰すると、ひどく対極的な二つの顔が浮かび上がってくる。一つは、スポットライトを浴びる個人の生々しく、時に目を背けたくなるような「過去」。そしてもう一つは、個人の実像すらも飲み込んでいくシステマチックで巨大な「資本」の動きだ。最近のニュースから全く毛色の違う二つの事象を並べてみると、この業界が抱える奇妙な多層性が見えてくる。
まずは、個人の過去という極めて人間臭い側面について触れてみたい。お笑いコンビ・EXITの兼近大樹(31)が自身のYouTubeチャンネルで行ったライブ配信は、まさに世間がエンタメに求める「綺麗な虚像」を打ち砕くような内容だった。フィリピンの入管施設に収容され、日本各地で相次いだ広域強盗事件の“ルフィ”と名乗る指示役と目されている渡辺優樹容疑者(38)。兼近は、彼との過去の繋がりを隠すことなく語った。
2012年に札幌で起きた窃盗事件。兼近は当時働いていたバーのオーナーが疑われた流れで、渡辺容疑者と共に逮捕されている(後に不起訴処分)。現在の関係性については「今も仲がいいとかはない」と明確に否定し、一連の強盗事件への関与もきっぱりと断言して退けた。ただ、当時の自身の置かれていた状況については「明らかに犯罪をしている人たちしかいない環境で生きてきた」と振り返っている。「あの時止められたよね」という世間の声に対し、「昔の俺はそういう人たちにやめろとは言えなかった。自分のことしか考えていなかった」と吐露するその姿には、社会のどん底でただ生き延びるしかなかった人間のリアルな無力さが滲んでいた。
さらに彼は、過去の女子高生の売春あっせん容疑についても言及した。当時一緒にあっせん業に関わっていた女性と電話を繋ぎ、涙ながらに過去を振り返る場面もあった。世間の一部で囁かれている「強姦や暴力的な行為で女子高生をその世界に引きずり込んだ」という噂については完全に否定しつつも、「今さら許してほしいなんて全く思っていない。自分が情けなくて」と語る。これは決して美談ではない。しかし、綺麗事では済まされない泥臭い人間の業そのものだ。
一方で、視点を海の外、そして「産業としてのエンタメ」の極致へと移すと、そこには全く別次元の景色が広がっている。個人の過去の過ちや感情の機微など入り込む隙もないほどの、圧倒的な資本主義のメカニズムである。
BTSなどの世界的アーティストを擁する韓国の巨大エンタメ企業HYBEが発表した第1四半期の業績は、まさにその象徴と言えるだろう。通常、音楽業界にとって1〜3月期は閑散期とされるが、同社の売上高は前年同期比39.5%増の6983億ウォン(約4億6800万ドル)と、第1四半期として過去最高を叩き出した。この数字を牽引したのは、他でもないBTSのカムバックである。
先月リリースされたBTSの5thフルアルバム『Arirang』は、発売初日だけで398万枚を売り上げるという桁外れの熱狂を生み出した。米国の音楽データ分析会社Luminateの集計によれば、週間で20万8000枚のLPセールスを記録し、これは1991年の集計開始以来、グループとして最高の数字だという。Billboard 200チャートでの3週連続1位(K-POPアーティスト初)や、リードシングル「Swim」のHot 100チャート1位獲得など、もはや彼らの影響力は音楽の枠を超えたひとつのグローバルインフラのようにも見える。
しかし、ここからが現代のビジネスの面白いところだ。これほどの記録的な売上を誇りながらも、HYBEの第1四半期の営業損益は1966億ウォンの赤字に転落している。韓国の金融データサービスYonhap Infomaxがまとめた市場コンセンサス予想(426億ウォンの黒字)を大きく裏切る結果となったのだが、その理由は業績不振ではない。最大株主であるパン・シヒョク議長が、自身の保有株式を社員へのインセンティブとして付与したことに伴う、2550億ウォンという巨額の「株式報酬費用」を計上したためだ。つまり、実際のキャッシュアウト(現金流出)を伴わない、帳簿上の一過性のコストによる赤字なのである。この特殊要因を除けば、実質的な調整後営業利益は585億ウォンの黒字となる。
彼らのビジネスモデルの強固さは、数字の内訳を見れば一目瞭然だ。アルバムやコンサートなど、アーティストが「直接参加」する活動からの売上高は前年同期比25.2%増の4037億ウォンにのぼる。BTSだけでなく、ENHYPEN、KATSEYE、Cortisといった他の所属アーティストたちも着実に成長し、収益基盤を支えている。さらに、グッズやライセンス展開、ファンクラブ会費などの「間接参加型」の売上高も65.5%増の2947億ウォンへと飛躍的に伸びている。これは現在進行中のBTSワールドツアーに関連するグッズ需要の高さが大きく寄与しているという。
HYBEのイ・ジェサンCEOはカンファレンスコールで、「北米、欧州、アジアで5万席規模のスタジアム公演が完売している事実は、BTSのグローバルな影響力とK-POPの世界的な広がりを証明している」と自信を見せた。第2四半期にはTomorrow X Together(TXT)、TWS、ILLITといったグループの新作リリースやBTSのツアー収益の本格的な反映が控えており、さらなる増収増益が見込まれている。
片や、消し去ることのできない生々しい過去と向き合い、カメラの前で涙を流しながらも「許しは求めていない」と語る一人の芸人。片や、一人の議長の株式付与が数百億円規模の帳簿上の赤字を生み出し、世界中のスタジアムを熱狂の渦に巻き込みながら数千億ウォンを稼ぎ出す巨大な企業システム。
これらは全く無関係の事象に見えるかもしれない。しかし、どちらも我々が日々消費している「エンターテインメント」の紛れもない現在地だ。泥にまみれた個人のリアルな人生の告白がコンテンツとして消費される一方で、完璧に計算し尽くされたグローバルなビジネススキームが天文学的な利益を生み出していく。私たちはこの極端な二面性を持つ不可思議な業界から、今日も何かを受け取り、そして何かを渇望し続けているのだ。
